生命の不思議な生態_第十話

投稿日:2024年1月10日

生命の不思議な生態(第十話)

 

繁殖出来ない植物(?)が人類を救ったイネ科の植物

 

4.トウモロコシ

 

トウモロコシは、不思議な植物である。

米・麦の祖先種は解っているのに、トウモロコシは、未だに祖先種が見つかっていない。原種は、中米の「テオシント」ではないかと言われている。

メキシコでは、食べられないせいか「テオシント」をブタモロコシと呼んでいるそうだ。

「テオシント」はイネ科の植物で、遺伝子研究からトウモロコシの祖先種だと言う説、見た目が全く違うから否定する説もある。そもそも「テオシント」自体祖先種がない。絶滅してしまったのかもしれない。

トウモロコシは謎の植物なので、予め完成した状態で、宇宙からやって来たのだとも言われている。結局、トウモロコシの起源は、世界の研究者の努力にも拘わらず迷宮入りとなってしまった。

植物として食べられているものの多くの植物は、大半が野生種(祖先種)から栽培種に改良したものだ。

トウモロコシはイネ科の植物だが、茎の先端に雄花(おばな)が、茎の中程に雌花(めばな:トウモロコシのヒゲ)が出来る。一般的に、植物は雌花と同じ場所に実る。めしべの子房が太って実となるからだ。

ところが、トウモロコシは、穀粒が花のついた場所(ヒゲの位置)とは全く違うところに出来る。これは自然の法則に反する。

更に不思議なことに、種(タネ)は皮で包まれているだけでなく、皮を破ってもしっかりくっついているので落ちることはない。これでは子孫繁栄が出来ない。落ちこぼれ組の筆頭である。植物としてはありえない。

現在の姿・形は、祖先種の頃から子孫繁栄が出来なかったのか、人間が品種改良した結果なのか、結局解明できずに終わってしまった。

 

マヤ文明では、人間がトウモロコシを作ったのではなく、「ククルカン」(翼をもった蛇の神)と呼ばれる神が、トウモロコシの粉と水を混ぜ、練って男女4組を創ったと伝えられている。マヤ神話は、多神教でトウモロコシの神様がいたようだ。

マヤ神話では、トウモロコシは神そのものであり、神の祖先を探すことがそもそもナンセンスなことなのだ。

旧約聖書は、土からアダムを創ったことになっている。

トウモロコシは、黄色・白・紫・黒・橙色の様々な色があり、人の肌の色だけある。スペイン人(コロンブス)が来るまで、先住民は白い肌の人間を知らなかったはずだ。ここが旧約聖書とは異なる点で、有色人種の存在が前提とされている。

 

トウモロコシが栽培された時期は、5千年から7千年前で、15世紀にコロンブスが持ち帰ったとされている。それまでは、先住民の重要な食糧であったが、ヨーロッパに持ち込まれた後も、ジャガイモ・トマトと同様、人々に受け入れられなかった。自然の摂理に反するからである。当初は観賞用として持ち込まれたのである。

その後、実だけではなく葉や茎も家畜の餌になり、実にはデンプンが含まれていることが判ったため、粉にして粥として食べられ、その後、水と粉を練って焼くとパンになることから、欧州人の食糧危機を救ったのである。このことから、とうもろこしは大量消費時代が到来して機械化され、大規模生産されるようになった。

大量生産・加工・流通・消費の循環によって、安くて豊富でおいしい高カロリー食品時代を迎えると、とうもろこしに多様の利用方法が生まれた。

「高果糖液糖」、「果糖・ブドウ糖液糖」、「ブドウ糖液糖」等の異性化液糖は、砂糖より安く爽やかでキレのある甘味があり、アイスクリ-ム・ゼリ-・ヨ-グルトに使われているだけでなく、長期間陳列される食品の新鮮さを保つことが出来るため、パン・菓子にも使われている。又、多くのソフトドリンクに入っている甘味は、トウモロコシから作られた甘味料である。

トウモロコシは、人口増大による食糧危機を見事に克服したが、現在は高カロリー食品による肥満が原因の病を量産させている。つい最近まで、肥満は金持ちの象徴だったが、現在、体質にもよるが、肥満は貧困の象徴になっている。ファスト・フ-ド中心の食事を脱却して、フィットネスジム・ジョギングをする余裕のある富裕層に肥満は少なくなった。

 

トウモロコシは、世界三大穀物の筆頭生産量を誇り、年間生産量は、

トウモロコシ・・・・・・11億4849万トン

小麦・・・・・・・・・・・7億6576万トン

米・・・・・・・・・・・・・7億5547万トン   (2019年調べ)

で、トウモロコシが圧倒的に首位を占めている。

65%が家畜の餌、20%はコーンスターチ(でんぷん)で、残りは、コ-ン油、酒(バ-ボン・ウイスキー:ジャックダニエル、IWハ-パ-)、甘味料(チューインガム、スナック菓子、栄養、ドリンク、コーラ)等用途は広い。無論、遺伝子組み換えが80%の穀物である。

家畜から間接的に摂取している点を考慮すると、人間の体の半分はトウモロコシで出来ているとも言える。

世界のトウモロコシ輸出国は、アメリカ、中国の2ケ国で世界の52.9%を占めている。主食としている国は、

1位・・・・・メキシコ(トルティーヤ)

2位・・・・・アフリカ諸国(パンの1種、無発酵)

で、直接の食用は4%にすぎないが、家畜の餌になっているから、人類の最も貴重な作物のひとつになっている。

日本はとうもろこしの輸入量が世界一だが、日本の消費量は年間1600万トン、1人当たり130キログラム。9割をアメリカから輸入し、その75%が家畜の餌として消費されている。

トウモロコシは関ヶ原の戦いより、少し前の1579年に南蛮貿易によって、日本に伝えられた。

水田を拓くことが出来ない山間地で栽培出来るから、土地利用の効率化にはうってつけの植物だった。

欧州から伝わったのだが、中国の「モロコシ」に見た目が似ていることから、唐モロコシになった。トウは唐、モロコシは「唐土」と言う漢字が当てられたが、モロコシは「キビ」とも呼ばれ「トウキビ」とも呼ばれた時期があった。

輸入された当時は、日本でも大半が家畜の餌だった。

 

トウモロコシは光合成の効率が高いため生産量が多いことと、「カ-ボン・ニュ-トラル」が注目されていることから、近年バイオエタノールの原料になっている。

種を撒いてから発芽・開花・枯れ死までのサイクルが1年(一年草)、種を撒いてから3ヶ月ちょうどで実をつける。毛はメシベ、全て受粉すれば毛の本数と粒の数(598粒)が一致する。だから、トウモロコシはヒゲが多いほど実が多い。ヒゲの一本一本が花粉を受け取り受粉するからである。

根元のメシベから順番に実が大きくなるので、先端に行くほど花粉がくっつく時期が遅くなり実が小さくなる。

粒は雌花が成長したもので、これが2つ1組で咲くから粒は種であり、実でもある。イネ科の植物にはこれが多い。

自家受粉を防ぐため、雄花と雌花の位置はずれており、成熟時期もずれている。

雌花が成熟し、受粉出来るようになる頃には、雄花は枯れている。

家庭で数本植えただけでは、自然に受粉しにくいので、人手による受粉が必要だ。大量に植えれば、開花時期に個体差によるずれが出てうまく受粉される。但し、ヒゲ全体にオシベの花粉をつけることは難しい。花粉がつかないと「歯抜け」になってしまう。

トウモロコシ畑の花粉の量はすさまじい。周囲が白く曇るほどの量で、アレルギ-症状を引き起こすので要注意。

焼きトウモロコシは、朝採れのものが最高に甘くておいしい。だから早朝に収穫したものを買ったらすぐに食べれば、それが本来のとうもろこしの味である。

茹でる場合、糖分が水に溶け出してしまわないよう、3分以上茹でないこと。

 

トウモロコシで思い起こすのは、川井郁子が弾く「エル・チョクロ」。彼女のバイオリンは、何を聞いても素晴らしい。

1953年に、日本バ-テンダ-協会「第五回オ-ル・ジャパン・ドリンクス・コンク-ル」が名古屋(御園座)で開催された。その時の優賞作品が「キッス・オブ・ファイヤ-」(火の接吻)で、この曲の原曲が「エル・チョクロ」である。

「エル・チョクロ」は、最古のアルゼンチン・タンゴである「エル・エントリア-ノ」の8年後に作曲された古いタンゴであり、意味は“トウモロコシ”である。

何故、こんな題名を付けたのかというと、作曲者がトウモロコシの煮込み料理が好きだったからと言われている。この料理はひょっとすると、白いトウモロコシを煮込んだシチュ-の「ロクロ」ではないだろうか。

アルゼンチンは、世界のトウモロコシ輸出国の3位であり、トウモロコシ料理は有名である。

 

以上、人間の目で見たとうもろこし感は、人間にとってかけがえのない穀物であるにも拘わらず、起源どころか、何故子孫繁栄が出来ない体で誕生したのかもよく解っていない。

「トウモロコシ」にしてみれば人間に栽培させ、世界中に広げるために、人間の都合に合わせて自分の体をわざと子孫繁栄出来ないようにしたのかもしれない。

いや、そんなこと「信じたくない!」

植物は虫に食われないよう、毒を持つのは当たり前なのに、この植物には毒がない。それどころか、「とうもろこし」由来の食物である「デキストリン」は血糖値の上昇を抑える効果があり、その効果により、ヒゲは天日干しにしてお茶として飲まれている。

又、コラーゲンの糖化を抑えるので血糖値を抑え、中性脂肪の上昇抑制効果があり、肌の老化を防ぐ効果があるとされている。

まるで、人間を養うために生まれてきたようだ。

但し、人間は人間の都合に合わせて植物を改良し、直接摂取、家畜の餌としての間接摂取を含めると、食料は世界の人の胃袋を満たす以上の生産を可能にした。

(過剰生産されても、分配は公平でない点に問題はあるが)

肉体労働の多くは、機械が代替し、昔ほどエネルギーを使わなくなった人が昔より高カロリーの食品を摂ることによって、世界中で肥満が増えた。

肥満体質は今や開発途上国にまで広がっている。

人類は、つい最近まで飢餓と感染症との戦いであった。

トウモロコシが誕生した時代に、飽食による肥満が世界中で問題になることをトウモロコシは予測していたのであろうか。

 

トウモロコシは、人間に栽培させて子孫を増やす替わりに、人間が絶滅しないよう飢餓を救わせ、食べすぎによる肥満体質になることを心配して血糖値を抑えるデキストリンの成分を仕込んだのか。

人間に栽培させるために、原種のトウモロコシの遺伝子に非脱粒性のDNAを仕込んでいたのか。この非脱粒性のイントロンは、本当に人間を想定して仕込まれたものなのか。仮にそうだとしたら、トウモロコシは「神」だったに違いない。

やはり、トウモロコシの神「ククルカン」は存在したのかもしれない。

この神は、数千年後に必ず人間に必要な時が来ると思って「非脱粒性のイントロン」を仕込んだに違いない。

 

「いや、・・・・・?」

 

「そんなはずはない!」

 

 

中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。
1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)を2018年2月に出版した。

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