14.認知症の話
アインシュタインが舌を出した写真、愛嬌のあるおじいちゃんですが、20世紀最大の物理学者にはとても見えない。
彼ほど有能な人なら、何をやってもチャーミングでサマになりますが、凡人がやったらバカとしか思わないでしょう。彼は日常生活では忘れっぽく、セーターは前後反対、ワイシャツのボタンは掛け違いで着ていることがよくあったそうだ。
こんな逸話がある。
電車の車掌が切符をチェックしに来た時、彼は切符がどこにもないのに気づいた。
背広・ワイシャツ・ズボン・カバンの中。10分程探したが見つからない。車掌は言った。
“私はあなたがアインシュタインだと知っています。あなたほどの人が無賃乗車するとは考えられませんので、もう結構です“
車掌は通り過ぎて、しばらくして後ろを振り返った。彼はまだ探している。
車掌はかけ寄って、
“もう結構です。あなたはアインシュタインですから”
彼は言った。
“私は自分がアインシュタインだということは知っておるのじゃが”
“では結構です”
“そうではない!”
“切符がないと何処で降りるのかわからんのじゃ”
相対性理論を知っていても、講演に行く最寄り駅が何処だかわからなかった。
でも彼は当然、認知症ではない。
認知症の患者は、OECD加盟国の千人あたり平均は、14.7人なのに日本は23.3人と約1.5倍多い。
忘れっぽくなったのは加齢のせいで認知症ではない。認知症の人はそもそも忘れたと言う自覚がない。
2014年度の統計では、7人に1人が認知症で、今年2025年には5人に1人が認知症になると言われている。
その理由は無論、高齢化が進んでいるからで、2023年時点では65歳以上の高齢化率は29.1%で日本が世界一。
二位はイタリアで24.5%、三位はフィンランドで23.6%。日本の地域別では、秋田県の高齢化が日本一進んでいる。
平均寿命が伸びているのに、健康寿命が伸びていないのが問題である。
食生活の欧米化が進んだのが原因だとされており、和食は高血圧の予防、免疫力を高めるのに有効だとされている。米、味噌汁、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚、緑茶は認知症のリスクを低下させる食品とされている。又、和食は脳の萎縮を妨げる効果があるとされている。
アメリカは終戦当時、小麦が余っておりそれを日本に売った。将来、日本人がパン食になれば安定的に顧客が確保されると考えた。当時の日本は戦争で米の生産量が低下し、韓国・東南アジアからの輸入が出来なかったから仕方がなかった。
小麦はアメリカの思惑どおりに日本に定着した。
薬に頼った認知症治療法は、効果が少なく副作用が多いという。このためフランスでは保険適用外にした。多種・多量の薬物による総合的副作用が認知症のリスクを高めたと言う説がある。
「レカネマブ」という薬を用いた治療をすると月に300,000円かかる。
患者負担は30%だが、高額療養費制度を利用すると月額数万円で済む。
効果が見込まれないのに医者が薦めるのは、製薬会社と医療機関がウィン・ウィンの関係になっているからだと指摘されている。
年齢ではなく、病気が原因で認知症が発症する場合がある。
脳血管疾患、高血糖、アルツハイマー病であり、慢性的ストレスは、軽度認知障害のリスクを高めるようだ。うつ病はストレスが原因でも起こりうる。
労働者の82.2%がストレスを感じている。日本人はもともとセロトニンが少ないらしく、うつ病になりやすいといわれている。
対策は、
① 食事と運動で、和食と適度な運動は、抗酸化・抗炎化作用が働き、リスクを軽減する。
② 薬に頼りすぎないこと。特にステロイド系、解熱鎮痛剤(アスピリン)がよくないといわれる。
③ 3休息をしっかりとることによって、免疫力が高まる。
食事療法が最も大切だが、食事から摂取した脂肪が血液中に溜まり易い遺伝的体質の人がいる。こういう人は、特に魚・野菜中心の食事がお薦めである。平均寿命と健康寿命の差は10年ある。他人の世話にならないと生きていけない期間が10年あるということだ。
子供の頃、母親に、“人様に迷惑をかけてはいけない”と何度も言われた。
しかし、人様に迷惑をかけずに生きていくためには、健康寿命を過ぎたら自殺するしかない。健康寿命が過ぎた時、自殺する元気が残っているのか疑問だ。
この対策として、平均寿命を短くし健康寿命を伸ばし、この10年の差を1から2年にすれば、老人は充実した人生を送れるし、財政負担は少なくて済む。一石二鳥だ。
そのうち、セロトニンを含む強力なホルモン剤が開発されるだろう。
15.記憶に残らないの話
重要なことだから記憶しておこうと思って、しっかり頭の中に入れたつもりでも、すぐに思い出せなくなってしまう。
特に固有名詞(人の名、物の名)が思い出せないが、話の流れは思い出せる。
又、誰かと会ったことは覚えているが、顔は思い出させても名前が浮かんでこない。
人の名を忘れないようにするため、何かを関連付けるようにするとよい。例えば、桑原さんという人に会った時、”京都出身ですか”と聞くと話に花が咲き、比較的記憶に残る。
当然、相手は”いや、おそらく先祖は何処かの百姓だったと思います”と謙遜する。
この会話で相手の顔と名前が結びつくので、記憶に残りやすい。それでも忘れてしまうことが多い。年のせいで短期記憶が衰えてきたのではないか。
どうもそうではないようだ。覚えなければならないことさえ忘れるのだから、必要のないことはすぐに忘れてしまう。
必要ないことは、脳がキャパから外すよう自動的に外しているのだろう。くだらないこと、必要のないことを全部記憶出来ないよう、脳は判断していてくれる。
ところが脳は、必要なことまで容量の無駄だと勝手に判断するらしい。これを勝手に外さないように考えた人がいる。
1920年、「ブルーマ・ツァイガルニク」というロシア人の女性で、人は、「達成できた事柄よりも達成出来なかった事柄や、中断している事柄のほうをよく覚えている」という現象を発見した。欲求が未完了の場合は、緊張感が持続しやすく、達成されることで緊張感が解消するのだそうだ。
達成出来なかったことや中断したことは、気になって忘れ難い。これを「ツァイガルニク効果」というのだそうだ。
「続きはCMの後で」、「詳しくはウェブで」、「続きは今度会った時に」、「貯めると特典があるポイントカード」、中途半端は気になるから、最後までやらない方が良い。
だから、暗記科目は中途半端な状態でやめる。
脳はやっていることを完了しないと不満が残り、未完了を解消したいという記憶が残る。脳にシャットダウンさせるのではなく、スリープにしておくと、その状態をキープしたまま脳が動いているからかもしれない。
アメリカの大統領「ベンジャミン・フランクリン」は、”今日の仕事は明日まで延ばすな!“と言った。
この教訓は間違っている。
トルコの諺にある“明日出来ることは、今日するな“は、「ツァイガルニク効果」ではなく、人生をもっと楽しめということだろう。
「ツァイガルニク効果」を発揮する教訓を思いついた。
「今日出来ることは、明日でも出来る!」
中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。
1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)を2018年2月に出版した。