中山鑑定士のコラム

投稿日:2021年1月13日

ウィルスの弁明

あけましておめでとうございます。
昨年、私は世界で一番注目を浴びました。殺してやりたいと思われているほど、いや何度殺しても許されないほど憎まれ続け、歴史に残る大悪党の汚名を着せられました。しかし、考えてください。神はすべての生き物を必要があってお創りになられたのです。この世に存在を許されない生き物はひとつとしていません。それなのに私達はあなた方から存在自体否定されているのです。何か大きな誤解があると思うのです。今年はその誤解を解くために話し合いをしてあなた方と融和を図りたいと思うのです。
まず、生命の目的が何なのかをはっきりさせようではありませんか。私達は生命の目的をごくごく単純に「生きる」こととしてしか考えていません。あなた方のように複雑難解な理屈は必要としていないのです。命を授かったらその命をひたすら守り、後世にバトンタッチしていくだけだと考えています。私達を取り巻く環境は刻々と変化しています。私達に環境を変える力はありませんので、自ら環境に適応していかなければなりません。劣悪な環境に生まれたとしても誰かを恨むとか、羨ましがることはしません。生きるために誰かを傷つけ殺したとしてもそれはひたすら生きる最小限度にしています。何故なら「生きる」ことそのことが生命の目的なのですから。
その点、あなた方は己の必要なもの以外は存在を許さないという「傲慢」な態度で歴史を生きてきました。
その為、環境に適応して生きるという生命の基本原理を逸脱して、環境を自分たちに合うよう大きく変えてしまいました。このことが世界に大きな悲劇を生んだのです。
利用できるものは何でも利用し、どんどん増やして「足るを知る」という生物界の基本原理を無視し、地球上の支配者の如く振舞ってきました。それに対し、ひたすら人間のためだけにこの世に生を受け、寿命を全うすることなく多くの動植物があなた方の犠牲になりました。彼らはそれでも報復どころか不平・不満も言わずにこの世を去っていったのです。今でもそれは現在進行形で続いています。
さて、話を元に戻しましょう。私達は、あなた方に「新型コロナウィルス」と呼ばれています。
どう呼ばれようと一向にかまいませんが、問題なのは私達があなた方に敵意を持っていると誤解されていることです。
「私達は生きた細胞の中でしか増殖できないために、感染した宿主が死ぬと私達自身も死んでしまう。私達の目的は宿主を殺すことではなく、私達自身が生き続け、子孫繁栄のために感染力を高めることですから、毒性が強くては増殖できません、毒性を弱める必要があるのです。自身が弱くなり、やがて宿主とともに共生していく道を辿ることになりますが、要は感染力が強く、毒性の弱いものだけが進化していくのです」
と、あなた方は希望をこめて私達の生き方について勝手にこのように解釈しています。
イギリスで大きな変異をしたのは、世界ですでに185万人の命を奪ってしまったので、これからは毒性を弱め、感染力を高めるよう進化したのだと思っているようですが、事実はそうではありません。本当のところ、コロナが蔓延したため医療を総動員し、インフルエンザの治療薬を初め、患者の隔離等の防疫体制がしっかりしたおかげで、私達の環境が悪化したから変異したのです。子孫を増やすためにこのまま手をこまねいている訳にはいきません。居心地の悪い環境になったから感染力を高めて環境に適応しているのです。私達には人類を滅亡させようとの尊大な考えは全くありません。考えてみてください。生命が誕生した38億年も前から私達は生きているのです。だから、ヒトコブラクダ、コウモリ、センザンコウだけでなく、ヒトとの付き合いはごくごく最近のことなのです。
植物とは長い歴史を共に生きてきましたので、より親しみがあります。地球上の植物と共生出来たのは、樹液や葉を食べる昆虫だけでなく、根を常食する線虫たちが媒介してくれたおかげです。あなた方も昆虫に負けず劣らず良き媒介者になって頂きました。
「接ぎ木」をしてくれたおかげで随分多くの種類の植物に子孫を残すことができました。有難いことです。
一方、植物はあなた方が媒介したために「接ぎ木」に対してはかなり神経質になっており、種子ができない「不妊症」になった植物もあるのです。
それなのに、あなた方は「マスクとかソ-シャルディスタンスとか不要不急の外出を控えろ」と言っていたそうじゃないですか。
「出来ることはすべてやりたいのですが、なにせ動くことができないのでどうにもならない」と嘆いていた植物もあれば、「私達は抗体を作る獲得免疫機能を持っていません。それに治療薬もないのです」と不安そうに人間を見ていましたよ。
どうも、動物も植物も私達ウィルスを悪者扱いしているようですが、悪い面ばかりを強調していて腹が立ちます。
私達の仲間のウィルスは、細胞に入ることにより、細菌性の感染症から動・植物を守っていることをすっかり忘れているのです。それだけではありません。あの目立ちたがり屋のチュ-リップは、私達の仲間のウィルスと組んでこの世では絶対見られない縞模様の美しい「ブロ-クン」を作り、バブルの頂点を極めました。しかし、あなた方は後世になって、バブルを起こしバブルをはじかせた原因を私達ウィルスのせいだとしたのです。
何度も言いますが、私達に他意はありません。
植物の種が鳥達に運ばれ、何処に落ちるか予測できないように、私達だって自ら動くことができませんので、何処に運ばれるか誰に運ばれるか自分で決めることは出来ません。ただ、種子と同じように与えられた環境の中で精いっぱい生きているだけなのです。
鳥よりも短時間でさらに遠くへと運んでくれる動物として人間を選んだと考えている人がいます。本当に疑り深い人たちです。私達は媒介者を選択できる力は皆無なのです。
多くの人が私達のせいで亡くなったそうですが、私達には犯罪の動機は何一つありません。
私達だけを責めないでください。
イノシシやシカが人の縄張りに入って畑を荒らすとあなた方は怒って侵入者を許さないでしょ。私達だってひっそり暮らしていたささやかな住処に土足で入ってきたあなた方を快く思っていません。
楽園(エデンの園)を追放された身なのに、許しもなく楽園に舞い戻ってきた一部の心無い人が縄張りを犯したのです。楽園を追放されて初めて見た植物が茨とアザミだったのをお忘れですか。あなた方は、罪が晴れるまで棘のある茨の道を歩む定めを負っています。
神は楽園に入ることを未だ許してはいません。神がどうして許可しないのかあなた方は解っていないようです。
生命の目的は「生き続ける」ことですが、それはあくまで環境に適応することであって、環境を変えてまで生きることではないのです。他の生物を犠牲にしてまで生きるその尊大さこそが罪なのです。
原罪とは「罪を自覚しないことなのです」
茨の荒野に解き放たれたあなた方は、茨を征服して歩むのではなく、いばらの荒野に適応して自らを変化していかなければ、いつまでもつらくて苦しい未来しかありません。
私達ウィルスに縄張り意識はありません。無論、「原罪」もありません。
一所懸命に生きているだけなのです。
私達には、あなた方が環境を変えず、いつまでも環境に適応しない限り、つらくて苦しい未来が訪れることは絶対にありません。

文責:ウィルスの代表、クサンティペの夫より

中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)が2018年2月に出版した。

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