中山鑑定士のコラム

投稿日:2019年12月11日

年寄りの愚痴(2)

前回のコラムの中で、私に相続を持ち掛けた友人は父親が大学教授で、昨年他界し母親は老人ホ-ムの世話になっている。息子は私の友人(内科医)でひとりっ子である。

地方都市のはずれ(市街化区域であるが、道路を挟んで東側は市街化調整区域)に住んでおり、300坪の敷地に5LDKの家屋と、庭には野菜畑と果樹を育てた形跡がある。父親の死と共に庭は荒れ放題になっており、ご近所から苦情が寄せられている。

今日の相談は、この家を売って勤務先のマンションに買い替えたいが、手続きと費用が心配で訪ねてきたのである。それに、「長押(なげし)に掛けてある先祖代々の写真と仏壇・位牌をどう処分したらよいかと云うものである。

勤務を終えるのが夜中になることは日常的な事とはいえ、独身の彼にとって誰も自分の帰りを待っていない真っ暗な家は孤独感を増幅する。

家族の歴史を断ち切って現在と将来だけを見据えた決断は、自分への区切りだろう。

私は自宅の登記簿謄本と固定資産評価証明書を見ながら、遺産分割協議書・相続登記・所有権移転の手続き・売却可能額・仲介手数料等一般的な説明を一通りしたが、説明している間、彼は固定資産評価証明書をじっと見つめていた。

「これ、間違っているでしょ!」

書類を私に向けて声高に言った。

「どこが?」

「君は先月、30万円以下の土地は非課税と言ったでしょ。評価額から30万円の控除が何処にもしていない。ほら、ここのところ」と指をさして少し得意げに言った。

居住用土地は200㎡以下は1/6に減額されることを説明したが、彼の頭の中は評価額から30万円を控除した上で1/6にしないと不公平だということだった。

私は、「免税点と基礎控除の違いを説明し、免税点を設けないと課税事務が煩雑になるからね」とあいまいな返答をしたのが悪かった。

「免税点を設ける主旨は分かったが、免税点を何故基礎控除としなかったかの説明になっていない。基礎控除をしてから面積要件で減額するならまだしも、面積要件で減額したから基礎控除を無くしたと云うのは納得できない」と興奮を誘ってしまったのだ。

更に続けて、

「税の基本は課税額に対するもので、面積とはそもそも全然関係がない。東京と地方都市では、単位当たりの地価が異なるため、カテゴリ-の異なる面積を使って減額することは税の公平性を著しく損なうものであり、おかしい!」

国立大学医学部出身とはいえ、税のことにもかなり詳しく鋭い指摘である。

「確かにその通り、だけど数億円の土地に居住している人が、評価額に対してのみ課税したらそこに住めなくなっちゃうでしょ。居住の権利を脅かすようなことを税制でやることは避けなきゃならないのでは。資産家は本人が亡くなると相続税が待ち構えていて、それが公平を補完していると考えれば納得出来る?」

「納得出来ないが、仕方ないか」と彼は諦めたようだった。

説明した私自身が納得していないから、説得力に欠けた説明だったことは確かである。

 

200㎡以下を1/6、200㎡超を1/3とし、同時に都市計画税は200㎡以下を1/3、200㎡超を2/3としたのは、評価額と時価がまだ大きく乖離していた平成6年のこと。

現在は、評価額と時価との乖離が概ね70%になり、この制度が導入された昭和時代とは異なり、宅地の需給バランスが完全に逆転してきたから、もうカテゴリ-の異なる負担調整を本来の課税評価額に戻す必要があるのではないかと思っているために、どうしても説得力に欠けるのである。

 

中山恭三

中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)が本年2月に出版した。

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